200年後の天命

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 私はこの場所に来る数日前、実家の近くにある病院に寄っていた。私の父と母がこの病院に運ばれたからだ。  いつもの穏やかな雰囲気の病院とは違い、院内の様子はまさに戦場。怪我をした人で溢れかえり、看護師は慌ただしく廊下を駆けていく。  怒号が飛び交うその様子は、私の知る病院ではなかった。  いや……それには語弊があるかな。前世の記憶ではこれに似た光景を知っている。  私の父は慢性腎不全と診断され、血液透析が必要ということでバスに収容された。  同じような症状の人たちが、すし詰めと言わんばかりの状態でバスに乗せられ、もう限界というところで扉が閉まり走り去っていく。  私は、父がどの辺りに乗っているかもわからないバスを見送り、病院を後にした。  母は、弟が看てくれているから大丈夫だろう。  気に掛かるのは父だ。  どこに連れて行かれたかも分からない。それほど、今この国は混乱している。  その日が訪れたのは2020年の5月12日。国際看護師の日であり、奇しくも私の誕生日だ。
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