黄色いチューリップ:

2/2
前へ
/2ページ
次へ
目を開けると、そこには黄色いチューリップがあった。 祖父母の家に預けられていた幼児期。 殊にナーバスになる四月。家の庭にはたくさんのチューリップが咲いている。 それを見るために表に出ることができて、そのついでに僕は保育園に行くことができたと思う。 とくに帽子とかばんと同じ色の真っ黄色のチューリップが好きだった。 園児を象徴するようなあの黄色いチューリップが好きだ。 僕は30歳を過ぎていた。 僕は今、結婚相談所のまえに立っている。 僕は、恋をよく知らない。 そもそもひとの愛し方、愛され方を知らないのかもしれない。分からない。 なぜなら僕は恋愛に全く自信がないから。 ひとから愛されると夢中になった。そうして僕は恋愛してきた。 スレンダーな女性からも、肥えた女性からも、いじわるずきな女性からも、やさしい女性からも。 要は恋人がいなければ僕は結構たやすく女性からの愛情にこたえていた。 ただし一時期にひとりだけ。誰かの愛情にこたえている時に、他の女性に見向きできない。 女性からのアプローチがどんな好奇心からなのか、どんな興味が僕にあるのか、どう確信があって僕にアプローチするのか僕は見抜いて夢中になった。 僕は決してモテるタイプでない。 ルックスも含めて。 お洒落といわれることもない。 稼ぎは中の中。男ばかりの職場にいる。 面倒見のいい既婚の先輩が女性を紹介してくれたり、歓送迎会の2、3次会で女のコのいる飲み屋に行ったりして、だからこんな僕でも少しだけ女性と接する機会があるだけ。 女性はオブジェのように見える。けっして僕から恋愛できない。 僕は黄色いチューリップが好きだ。 だから僕は、春の時季に花屋を見かけると、黄色いチューリップを選んで恋人に贈った。 夏秋冬は何も贈れない。そんな気がする。 黄色いチューリップの花言葉は、hopeless love, unrequited love: 望みのない恋、報われない恋。 それを僕は知っている。 僕は今、結婚相談所のまえに立っている。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加