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「私たちが帰国した日もそう。
あの子、あなたがシャワーを浴びている時に会いに来たのよ?
健気よね。怜に会いたいって何度も言ってた。
だから彼女に言ったの。『怜は今、シャワーを浴びている。私たち、それくらい親密な関係なの。だから帰って?』ってね。
怜の彼女は私ですって強気で言う割には、簡単に騙されて簡単に傷つくんだもの」
「……何、言ってんの…?」
声が…震えていた。
「怜は誰にでも優しい。
有里果さんだって怜と一緒になれることを期待したはずよ。
……私だってそう…。
だって怜はいつだって、どんな時だって優しく接してくれた。
その無償の優しさは、時には人を勘違いさせる。
怜も同じ気持ちなんだと錯覚させるほどね。
怜の優しさに触れて、勘違いしない人はいないんじゃないかしら?
怜にとってそれはあたり前だったから気づかないわよね?
だってあなたは誰にだって無償の優しさを振り巻いていたもの。
その曖昧な優しさが、あなたを想う人を惨酷にさせ、傷つけるのよ」
針のような視線が突き刺さる。
鉛がついたように身体が動かない。
「有里果さんだってそうじゃない。
あなたの優しさに触れて、勘違いした。
境界線のない優しさ、無防備な笑顔、あなたの博愛主義な考えが偽りだと知った時、あなたを愛する気持ちは歪みへと変わる。
怜は純粋すぎて簡単に人を信じるもの。
隠れた本性を見抜くこともできない愚かな人。
有里果さんや私の心がこんなにも闇で包まれているだなんて一度たりとも疑わなかったでしょ?
私と二年過ごしても、あなたは私の隠れた本質を見抜けなかった。
当たり前よね?私に気持ちがなかったんだもの。
一度たりとも、私に気持ちを預けたことも、私を見てくれたこともなかったものね」
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