第十章 調査団の報告会

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 ある孤島の丘の上には周囲を高い壁で囲まれた大きな建造物がある。それは数あるリュウネクスト教団の施設の中の一つである。  教会をモチーフに建設された巨大な建物の中央部には広間があり、台座から伸びた階段の上には一つの玉座が置かれている。  玉座は布で囲われていて中に座っている者の姿は見えない。天井や壁にはかつての古代宗教が天国を表した世界観とそこに暮らしている天使たちの姿が描かれている。台座の前には法衣をまとった頭髪の薄い狡猾そうな中年の男が一人立っている。  壇上にいるその男の前にたくさんの椅子が並べられていて、薄い灰色の衣服を着た教団の者たちが静かに座っている。座り切れずその周囲に立ち尽くしている者の姿もあった。これだけ大勢の人が集まっていてもひっそりと静まり返っている。時折、誰かが咳き込む声がするくらいだ。  かつて世界を席巻した政治政党だった頃のリュウネクストは世界を10のエリアに分割して統治していた。宗教や文化の違いに応じて、その支部ごとにそのエリアを象徴するような多様な建築が施された。そのため施設には教会風のところもあれば寺院のようなものなどが混在しており、教団化した後もその名残で建物がそのままになっているため一見すると宗教としての方向性が散満としているようでもある。  しかし永い間、政治政党リュウネクストによって心を同調され質素な生活を送っていた人々はその過程で宗教心を著しく喪失しており、教団化したリュウネクストが一つの教義に収まることは甚だ困難なことであった。  かつてのリュウネクストは自らの統治が浸透していくにつれてそういった文化や知識が失われていくことを予見しており、世界平和の実現の裏でその保全と収集を行っていた。  それがリュウネクストの権威が崩壊した後になって、リュウネクストの側に残った者たちが求心力を得るため、施設に残されていた宗教的な文化や遺産を用いるきっかけになった。  教団と化したのは政治政党だった頃の信条が宗教となったというのではなく、組織が減退していく中で、そこに残った者たちが活路を開くための手段が各施設に保管されていた遺産の活用だったという側面が強い。リュウネクストは多くの人々からの信頼を損ねてしまったが組織としては未だに世界中で大きな勢力を堅持している。  「あ、あ、ゴホン。ん。ん。」
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