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(え、今の……?)
恐る恐るテーブルに残ったクッキーを覗き込むと、中心にあるトランプの絵柄の中で人の顔が蠢いている。
「ひっ……!」
スペード、ダイヤ、クラブ、ハート、そのすべての絵柄の中からタスケテタスケテと繰り返しこちらに訴えてくる人の顔。
「これは、何!? どうして人が……」
『さあねさあね。でもこれは美味しいクッキーさ。それ以外の何物でもなイ』
ウサギはもう一枚のクッキーをティーカップに押し込み、上からドボドボと紅茶を注ぐ。それをぐちゃぐちゃとスプーンでかき混ぜると、また悲鳴が尾を引いた。
「気にしないでアリス。このウサギは狂っているんだ」
私のカップに紅茶を注いでくれるハッターに、ウサギが詰め寄る。
『ハッタァァァ! キミも狂っているだろう? オレはとてもじゃないが、あんなに綺麗に薔薇を咲かすことはできないゾ』
(薔薇? あのアーチになってる……)
「ははは、もちろん僕も狂っている。ここの住人は全てそうさ。……おや、いらっしゃい」
ふいにハッターが視線を上げて微笑んだ。
『シシシシシシシ……』
上から降ってきた忍び笑いに頭上を仰ぎ見ると、庭木の枝に紫色の縞模様をした猫が乗っている。
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