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その顔は耳から耳まで届くようなにやにや笑いを浮かべていた。
「笑ってる……猫なのに」
「ああ見えても彼、この世界ではかなり力のある名士なんだよ。アリスの世界にも行き来できるんだ」
「私の世界って……」
現実に?
まさかそんな。こんな変な猫が目撃されたらすぐにニュースになってしまう。
『シシシシシシシ……』
また猫が笑う。
するとその笑った顔が、顔だけが、スウッと木の上で消え失せた。
「えっ……!」
「今、彼の顔はアリスの世界に行ってる。そうやって二つの世界を繋ぐ時は、獲物を運ぶ時だよ」
獲物って、現実世界のネズミ? そんな気持ち悪いモノが運ばれてきたら嫌だな。
そう思ったのも束の間、いきなり目の前の空間に大きな赤黒い塊か現れて、グシャ!とテーブルの上に落ちた。
(っ!!)
その塊の正体は、下着姿の……たぶん女の人。顔だけがなぜかグチャグチャに斬り刻まれ、目玉が片方飛び出している。
現実では出ない私の悲鳴が、夜のクルーエルランドをつんざいた。
『もうもう、猫どの! 獲物をテーブルに置くなといつも言ってるだろ! またまたクロスを取り換えなきゃいけないじゃないカ!』
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