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ウサギがテーブルクロスの四隅をたくし上げ、女の死体を包んでテーブルから引きずり下ろす。
「あ……ああ、ああああ……」
私の目の前をズルズルと通り過ぎていく、死体を包んだテーブルクロス。逃げたくても、足が震えて椅子から立ち上がる事も出来ない。
そんな私の肩を、ハッタ―が気遣わしげに抱き寄せた。
「大丈夫かい、アリス。あの猫は人間の死が好きでね。時々アッチに行っては、目ぼしい狂気を嗅ぎ分けて死を待つ。狂った趣味だろう?」
『シシシシシ死シシシ……シーッシッシッシ……!』
いつの間にか顔が戻り、木の上で笑っている猫。嬉しそうに満足そうに、狂喜を全身に漲らせて。
「……震えてるの? アレはもう死んでるんだから何も出来ないよ。君に危害を加える事もない。ここでは怯えるモノなんか何もないんだ」
「どうしてあんなモノ……持って来るの。訳がわからない……!」
「じゃあ、なぞなぞだ」
あまりに突然、そして場違いな言葉に私は耳を疑った。
「あの女の死体、たった四歳の息子はどうしてあんな風に切り刻んだんだろうね」
「なに……? 何を言ってるの……」
「その小さな魂は、なにを母親に求めたのか……なぞなぞだよ」
その瞳は、それがあの女性の顛末だと告げている。
「い……いやぁぁ! 帰る! こんな所イヤぁぁ!」
ショックで逆に身体が動き、ハッターを突き飛ばして私は走る。
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