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健と別れた後、特に用事もなかった俺はそのままマンションへ帰ることにした。
乗り気はしなかったけれど、どうしても入社日までには片づけておきたかったから。
都内の新築物件。
ボストン時代の貧乏生活とは大違いだ。
かといって、贅沢な生活はできないけれど。
「終わるのか…?これ」
いや、終わらねぇ。
自嘲するように小さな笑みを浮かべて、そう呟いた。
山のように積まれた段ボールを目にして、盛大なため息が漏れる。
ほとんど処分はしてきたものの、日本で新調した家具類もあるため、整理するのも一苦労なのだ。
…とりあえず、適当に仕分けるか。
こんなことなら、健に手伝ってもらえばよかった、なんて思いながら。
久しぶりの親友との再会は思いのほか嬉しかったのか、余韻に浸る俺は軽快な手つきで段ボールの中身を捌いていく。
だけどその手は、ぴたりと止まった。
段ボールの底にはリングケースに包まれた指輪。
ずっと捨てられなかったのは、捨てたくないという意志があるから。
俺は見ないふりをして、リングケースを手に取ると、無理やり押し入れの奥へ仕舞い込んだ。
自分の気持ちに蓋をするように。
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