第十三章 ドラゴンの爪が切り裂いたもの(後)

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 昼食を終えたハヤトらは宿主セバスチャンの家へ向かっていた。食事を御馳走した宿主は若者三人の想像以上の大食漢振りに唖然として眺めていたが、同時に頼もしい気がして暖かい目で見守っていた。ハヤト達と並んで街の雑踏を闊歩する。  宿主は昼食の際になぜ街の周辺にモンスターがいなかったのか、街の中に屈強な風貌の者たちがよく見受けられるようになったのかをハヤトらから説明を聞き納得した。そのあとだったからか宿主は自分も戦士にでもなったつもり胸を張りノシノシと歩き始めた。その冗談をハヤトらが察知して、まるでその支持者か弟子のようにそそくさと後を付いて歩く。それを見た筋肉質で鎧を身に着けた男が隣の仲間に向かって「あれはきっと見た目は少々年老いてはいるが相当熟練の手練れた戦士に違いない。」と噂する。宿主とハヤトらはそのまま歩き通して、人通りの少ない路地に出ると皆笑い転げた。一通り笑いが収まるとゾーイが言った。  「おっちゃんやるなー。」  宿主が愛嬌のある表情を浮かべて言った。  「これでも若い頃は俳優になりたかったんじゃ。」  その後も他愛ない話をしながら帰路を歩んでいると家の前には城の兵隊が一人待っていた。兵隊が宿主らの存在に気がついて声をかけてきた。  「わたくしはここに住んでいるという元結界師のセバスチャン殿をお迎えに参りました。城の研究員の者があなたの助言を伺いたいとのこと。是非都合が良ければ今からでも城へ来て頂きたい。」  ハヤト達は一瞬、時魔導士カメリアからの使いの者かと思っていたため肩透かしをくらったような気分でがっかりしている。そこへ宿主が先程までの勇ましき戦士のような振る舞いで答えた。  「馬鹿もん!元ではない!今も現役の結界師じゃ!正確には元この街の結界師である。そこのところを履き違えないように!」  それを聞いた兵士は宿主に平謝りした。すぐに冷静な態度に戻った宿主が言った。  「いやいやこれは冗談じゃよ。城の大臣の真似じゃ。さっきからこの若者たちとふざけておったんじゃ。そんなに気にせんでくれ。よし、何かわかったかもしれんな。このまま城へ向かうとしよう。ハヤト達は家でゆっくりしていてくれ。」  宿主は兵士と一緒に城へ向かっていった。
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