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あるところに勇者がいた
百戦百勝の勇者がいた
ところが初めて負け戦
空舞う敵に手も足も出ず
勇者の剣はちっぽけな
果物を切るナイフに負けた
天使にそっくりな悪魔は
勇者の心臓をわしづかみ
まず一つ
とだけ言った
少年は死の天使になった
あるところに親子がいた
仲睦まじい親子がいた
幸せな幸せな親子がいた
でも死の天使には
心臓が二つあるのと同じだった
子供から心臓を奪い
怒り悲しみ泣き叫ぶ親を
可哀相だとおもったから
親の心臓も奪ってあげた
白い翼は赤く染まり
顔も赤黒く汚れたけれど
悪いことをしているなんて
死の天使は考えもしなかった
世界中の誰よりも
天秤にかける余地もなく
たった一人の女が大事だったから
死の天使の噂は広まり
国中の兵が集められた
一万の兵が集められた
それでも空飛ぶ死の天使
つかまえられるものはなく
一万の心臓が落ちているのと
何一つ変わることはなかった
いくら命を盗んでも
血と臓物で汚れても
白い翼が黒くなっても
綺麗だった顔に蝿がたかっても
瞳は少年のままだった
もうすぐあの子が起き上がる
嬉しくて嬉しくてたまらない
いとしくていとしくてたまらない
たった一つの心配事は
世界に百万も人間が
いなかったならどうしよう
そんなことだけ考えた
やがて百万の命が失われた
たった一つの命のために
たった一つの幸福のために
たった一つの愛のために
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