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そして女は救われた
百万の犠牲と引き換えに
女はちっとも嬉しくなかった
彼女の命と引き換えに
愛するものが汚れてしまったから
愛するものが世界を敵にまわしたから
たった一つの愛が世界を滅ぼしかねないことを知ってしまったから
死の天使は憎まれた
世界中から憎まれた
それでも罪など感じなかった
女が再び目を覚ましたから
愛するものがいればそれでよかったから
女は石弓に矢を番え
銀色の砂浜の
夕日を背負って空を舞う
無邪気な悪魔を貫いた
愛するものを撃ち抜いた
百万の命をとった無敵の怪物
愛するものだけには無力だった
天使は翼を落とされて
潮騒の中に落とされて
灼けつく痛みがあったけれど
物言わず女を抱きしめた
この女にならなにをされても痛くないのか
愛するほかにこの女にできることを知らなかったのか
それは誰にもわからない
女は涙を流しながら
ボロボロボロボロ流しながら
愛するものをナイフで刺した
百万の命を奪ったナイフで
何度も何度も何度も刺した
愛してる数だけ刺した
天使の腹はあっというまに
挽肉と同じになった
そのくらい愛していたから
光を無くした天使の瞳にに
誰より愛した少年の瞼に
少女は優しくキスをして
虚になった目を閉じてやった
少女は血みどろの少年の胸に
いとおしげに頬を擦り寄せ
笑顔で自らの胸を刺した
愛するものを刺したナイフで
正義の怒りと憎しみで
悪魔を狩りにきた人々は
世界で一番罪深いカップルをみつけた
世界で一番幸福なカップルをみつけた
二人はやっと永遠に幸福になった
完
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