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その後、少し気分が良かったのに、私は台所にいたお母様とあの子を見て機嫌が悪くなったわ。だってお母様の足の間をするすると抜けながらまたあの甘い声を出していたの。
そうしたらお母様は屈んで、切っていた蒲鉾の切れ端をあの子にあげて頭を撫でたのよ。
あの子が来てから私は可愛がってもらえなくなった。やっぱり許せない。
私は台所からお母様がいなくなってから、あの子に近づいた。
そうしたらあの子、嬉しそうに私に戯れて来たの。頭にきたから叩いて追いかけ回してやったわ。
驚いて走り回って、不器用ながらもリビングにある少し高いテーブルの上に乗ったあの子を追い詰めた。
テーブルから叩き落としてやるんだから!
そう思って手を伸ばしたら、すっと避けられて私の手はテーブルの上に乗っていた花瓶に当たってしまった。
ガシャーン!と凄い音がしたのを聞いて、お母様がパタパタと足跡を鳴らして近づいてくるのが分かった。
だから私はつい柱の影に隠れてしまった。お母様に嫌われてしまう。
お母様は私を捨ててあの子を選ぶわ。
そう思ったら怖くなった。
リビングに来たお母様は割れた花瓶を見て怒った。
「もう!誰がやったの!」
そう言いながら片付けを始めた時、あの子が前に出たの。
まるで自分がやりましたというように耳を下げて。
お母様もそれに気づいて「あんたね!ダメでしょ!」と叱った。
お母様は怒りながら、袋に入れた花瓶を持ってリビングを出て行った。
私はあの子にそっと近寄って言ったわ。
「あなた、あのタイミングで出たらあなただって言ってるようなものじゃない。バカなの?」
こんなことを言いたいわけじゃなかった。本当は私のせいなのに、この子がやったと思われて私の代わりに叱られてしまった。むしろお礼を言うところじゃないか。
「でもクリームお姉ちゃんが怒られちゃうでしょ」
おどおどしながら発したその言葉に、私は胸を突かれた。
この子ったら私をわざと庇ったの?
あんなに意地悪をしたのに?
「別に庇ってくれなんて頼んでないわ。恩着せがましいわね」
つい顔をプイッと背けてしまった。
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