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「吾輩はぬこである。名はもうある。
って顔をしていたからね、拾ってきちゃった!」
満面の笑みを浮かべて、彼女は言った。
その両手にいるのは紛れもなく猫。
ぬこではなく猫。
さらに言えば、かなりの極悪人面だ。
彼女の拾ってきた猫と彼女の顔を交互に見て、玄関先で絶句する僕。
そんな僕を見て、不安そうな表情をする彼女。
「とにかく、中に入りなよ」
同棲を始めて早3年。
こたつの中に2人で足を突っ込むことに随分と癒しを感じている今日この頃。
今夜は1匹、余分なものもいるが。
「ぬこちゃん、ぬこちゃん」
と楽しそうに猫とはしゃぐ彼女。
たまらん、かわいい。
そう思いながら彼女を見ていると、奴と目が合った。
そして、はたと気付く。
「ちょっとその猫見せて」
僕はやや強引に彼女の腕から猫を取り上げた。
そして然るべき場所を見て、こう叫んだ。
「この猫、雄じゃないか!」
嫉妬混じりの声を、彼女は怒られていると勘違いしたのだろう。
しょんぼりと項垂れて、涙目になる。
僕より3歳年上の彼女が3歳年下に見えてしまい、やりきれない。
どうしてこんなにもかわいいんだ。
悶える僕の腕から奴はするりと抜け出して、慰めるように彼女に寄り添う。
……ほう、宣戦布告か?
受けて立とうじゃないか。
僕は未だしょんぼりとしている彼女とそれから猫を抱き寄せて、
「結婚しよっか。そして、ぬこだっけ?この子も飼おう」
驚くように彼女の息を吸う音が耳元に聞こえた。
そしてどや顔のぬこ。
別にぬこのおかげってわけじゃない。
どっちにしろ、今夜告げるつもりだったことさ。
これにて、ぬこぬこ。
……実はぬこぬこってとっても幸せな響きじゃないのか?
おやおや、戦いはまだまだ続きそうだ。
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