第10章  純白とマドンナ(続き)

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女は誰しも、好きな男の前では最高に美しくありたい。 自信を持って、その男がつく溜息を、全部呑み込めるくらいに美しくいたい。 たとえそれが望みようのない美しさでも、女は、やっぱりそれを望む。 だから女は、年を取りたくないのよ。 こうして肌を重ね合い、彼が満足げに私を褒めてくれている今でさえも、 私の胸の内では、やはりこの間延びしてしまった肉体への不安と不満が 渦巻いている。 そしてそれは、それほどまでに今の私が田村に心を奪われている証だった。 私は、ちょっと複雑な思いを浮かべ、俯くように彼の胸に耳をあてて 漏れ出てきそうな溜息を、そっと呑み込んだ。 私って、どうしてこうなんだろう――。 初めて彼とキスした夜も、そして初めて彼と抱き合った今夜も、 どうして素直に彼との触れ合いを喜べないんだろう。 だが、なんとなく彼が感動を味わい深く言葉にすればする程、 自分が真実とは逆のほうへと美化されていくみたいで 涙までがふと浮かんでくる。
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