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通り過ぎる“あの者たち”は私の手に抱かれる彼女の亡骸を見るなり、怯え身を引く。
あの者たちの同胞が起こした事なのに誰一人として目を合わせようともしない。
だって彼らは等しく被害者で、加害者であろうとすることはないのだから。
私は彼女を地中深くに埋め、彼女の頭を最後に撫で、土を被せる。
そして、さらに土を盛り、その中心に割り箸を立てる。
割り箸の中心には既に彼女の名前が書かれている。
“マグロ”
その名前は彼女自身が幸せと感じていた時間に手に入れたモノだった。
その美しいぬばたまの黒き毛皮を褒められて付けられた名前。
そう、彼女自身……あの者たちに拾われ、飼われていた時期があったのだ。
それでもその間は幸せで、彼女自身も楽しんでいた。
その名で呼ばれることに幸福を抱いていた。
あの者たちへの恨みを忘れそうになるくらいに……。
自分の名前に愛おしさを感じるくらいに……。
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