雪の朝

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雪が止んだ朝、ユーミンはしばらくぶりに外に出てみた。冬は寒いのが当たり前とはいえ、降った雪が積もるのは珍しかった。 雪になじみがないわけではない。街にいたときでも年に一回くらいは降ったし、すぐ近くに見える山の上の方は毎年白くなっていた。しかし踏んでも茶色い地面が出てこない経験は、これが初めてかもしれない。 外はまぶしかった。そして温かい。日光が白い地面に反射するせいだろう。ユーミンはいつも履いているブーツで、平らな雪の上を踏みしめた。ズボッという音に軽く驚く。普段は地面を踏んで穴が空くことも音がすることもない。 急に楽しい気持ちになり、ザッザと踏みながらしばらく進んだ。動物の足跡は何も見えない。地面も木の枝も白いものに覆われてなんだかいつもと違う。 大きな木の下の、地面が見えているところへたどりついたとき、風が枝を揺らして細かい結晶がはらはらと舞った。ひどくきれいだ。素手で雪を握り、的も決めずに投げつける。 降っている間はあんなに怖かったのに。 慣れていないせいだろうか。空から降る雪はユーミンを不安にさせた。家を森を押しつぶそうとしているようだ。実際にはそれほど降るはずがないと、経験から知っている。それでも、手の届かないところから切りがなく落ち続ける小さな雪片は、こちらの意思が通じないものとして怖かった。 吐いた息が白く凍る。寒いのは得意じゃない。でも山の冬景色はすてきだ。 ユーミンの家は山の中腹にぽつんとある。四季はあるものの緩やかで、麓の街の人なんかは、雪遊びのためにわざわざ山を上ってくるほどだ。 ここ数日降ったり止んだりした雪は、今はくるぶしの上まであった。誰も踏んだ跡のない白い地面に足跡のスタンプをつけながら歩く。 山の友達は皆冬眠しているはずだ。目覚めるまでにまだあと一月はかかるだろう。ユーミンも雪がある間は家にこもって過ごす。それでも全く外に出ないわけにはいかない。皆のように眠って過ごせたらいいのに、とたびたび思う。 山道に出た。そこで人の足跡を見つけたとき、ユーミンはせっかくの朝に水を差された気がした。 足跡は山を越える方へつながっていた。おそらく少し前に通ったのだろう。ユーミンはそれ以上の散歩をやめて家に戻った。
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