雪の朝

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「おかえり」 温かい室内では大きな蛇が毛布にくるまって、外国の雑誌を眺めていた。胴体が一つで頭は二つある。シャム双生児のリコとリタだ。 リコの方が雑誌から目を離さず言う。 「紅茶もらえる? ミルクたっぷりで」 「ミルクは粉だけどいい?」 「あん」 リコは非難めいた声を上げた。 キッチンに向かうユーミンと自らの姉妹を、リタが困った顔で見比べる。 「リコったら。お願いするのにそういう態度はないと思うわ」 「ああそう。じゃあ自分で紅茶をいれろっていうの?」 リコは手のない体で、どこか得意げに胸を張った。ユーミンが振り返る。 「気にしないで。リタも同じのでいい?」 問われて、すまなそうに頷く。 双子はつい昨日まで屋根裏で冬眠していた。春がくるまで目覚めるつもりは本人たちにもなかった。それがなぜか、目覚めてしまった。 「家があったかすぎたのね」 と全ての責任がユーミンにあるかのように言い放ったのはリコだ。家主に許可を得ず、いつの間にか屋根裏に住みついたのは彼女たちの方なのだが。 灰色猫のJは、と見ると、壁の上の方に取り付けられた棚で丸くなっていた。天井に近い方が温かいのだろう。もとは短い毛がだいぶ長くなった。それでも冬は苦手らしく寝てばかりいる。傍目にはモコモコしたクッションのようだ。 「Jも紅茶飲む?」 一応声をかけてみる。Jは面倒くさそうに片目を開けただけで、長い尾を振って答えた。
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