雪の朝

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しかし計画通りにはいかないもので、しばらくもしないうちに都合は狂わされた。誰かが戸を叩いたのだ。 「やだ、誰?」 大げさにキャンキャンした声をリコが上げる。 不思議に感じたのはリタもユーミンも一緒だ。戸を叩く知り合いと言えば、今は冬眠中の熊のマリオか、行商人のティッペか。どちらもこの時期に訪れるはずがない。 「誰だろうね」 立ち上がったユーミンに心配げにリタが頭を寄せる。 「怖い人かもしれなくてよ。窓からそっと覗いてみたら?」 良い提案だが、カーテンを開ければ外の人にはわかってしまう。不安――というより迷惑に感じつつも、ユーミンはまっすぐ玄関に向かった。もし怖い人だったとして、室内でとぐろを巻いている双頭の大蛇を見れば、立場は逆転するはずだ。 一瞬、街にいる知り合いの顔が思い浮かんだ。この雪のなか、わざわざ遊びに来てくれたのだろうか? それなら寒いからと横着がらず、ドライフルーツのケーキでも焼いておくんだった、と後悔した。今日はパンを焼く準備もしていない。 面倒に思う反面、室内の温度が微妙に上がった気がした。 戸を開けたとき、室温は一気に冷え込んだ。そこに立っているのは知った顔ではなかった。 山越えの重装備に身を包んだ年長の男性。丸く開いた目に人懐こさと驚きがにじんでいる。ユーミンは狸か大型犬を連想した。
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