雪の朝

6/10
前へ
/10ページ
次へ
「やあ、人がいた」 男はずいぶんと大きな独り言を言った。 「ここ……君の家?」 「そうですけど……」 「人が住んでるんだね。そうかあ。いきなりで申し訳ないんだけど、何日間か庭でテントを張らせてもらえないかな。いや、これから雪が降るっていうんでね、平らで安全な地面だけあればけっこうなんだけど」 「あらそう。お茶の一杯でも要求されたらお金をとってやればいいんだわ」 家主が答える前に、背後から甲高い声が届いた。面白がるような口調はリコだ。 男はちょっと覗き込んだ。声の主を確認して改めて目を丸くする。 「やあ、大きな蛇だ。……今しゃべったのはあの子?」 言われて、今度はユーミンが驚く。 「聞こえたんですか?」 「小さい女の子みたいな声がしたよね。あの子じゃなくって?」 「あたしよ」 やはりなぜか得意げな仕草をするリコを、男は感心したように見つめた。 ユーミンは庭にテントを張ることを許可した。張り終わったらお茶をごちそうしますと言い添えて。 支度をするユーミンの足元でリタが不思議そうに聞く。 「どうして許したの? 人と関わりたくないんじゃないの?」 答えるのに数秒の間があった。 「ねえ、あの人……人間だと思う?」 双子は顔を見合わせてから、それぞれ肯定の返事をした。 「見た限りはそうね」 「そうか……どうしてリコの言葉がわかったんだろう」 「魔法使いだと思うの? それなら使い魔か何か、魔力を与える核のようなものを持っているはずよ。あの人にはそんな感じがしないわ」 リタに言われてますます興味が深まる。ユーミンも同じことを思っていた。魔力の弱い見習い魔女とはいえ、他の魔法使いに会えばそれらしい感覚には気づくはずだ。 まだJと知り合う前だって、街ですれ違った人から奇妙な感覚を受け取ることがあった。あとでJに聞いたところによると、ユーミンの持つ魔女の素質が直感を働かせたということらしい。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加