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「やあ、人がいた」
男はずいぶんと大きな独り言を言った。
「ここ……君の家?」
「そうですけど……」
「人が住んでるんだね。そうかあ。いきなりで申し訳ないんだけど、何日間か庭でテントを張らせてもらえないかな。いや、これから雪が降るっていうんでね、平らで安全な地面だけあればけっこうなんだけど」
「あらそう。お茶の一杯でも要求されたらお金をとってやればいいんだわ」
家主が答える前に、背後から甲高い声が届いた。面白がるような口調はリコだ。
男はちょっと覗き込んだ。声の主を確認して改めて目を丸くする。
「やあ、大きな蛇だ。……今しゃべったのはあの子?」
言われて、今度はユーミンが驚く。
「聞こえたんですか?」
「小さい女の子みたいな声がしたよね。あの子じゃなくって?」
「あたしよ」
やはりなぜか得意げな仕草をするリコを、男は感心したように見つめた。
ユーミンは庭にテントを張ることを許可した。張り終わったらお茶をごちそうしますと言い添えて。
支度をするユーミンの足元でリタが不思議そうに聞く。
「どうして許したの? 人と関わりたくないんじゃないの?」
答えるのに数秒の間があった。
「ねえ、あの人……人間だと思う?」
双子は顔を見合わせてから、それぞれ肯定の返事をした。
「見た限りはそうね」
「そうか……どうしてリコの言葉がわかったんだろう」
「魔法使いだと思うの? それなら使い魔か何か、魔力を与える核のようなものを持っているはずよ。あの人にはそんな感じがしないわ」
リタに言われてますます興味が深まる。ユーミンも同じことを思っていた。魔力の弱い見習い魔女とはいえ、他の魔法使いに会えばそれらしい感覚には気づくはずだ。
まだJと知り合う前だって、街ですれ違った人から奇妙な感覚を受け取ることがあった。あとでJに聞いたところによると、ユーミンの持つ魔女の素質が直感を働かせたということらしい。
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