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男は大げさな素振りで頷いた。
「なるほど。やっぱり山の生活に慣れてると、年をとっても麓へは降りたくないわけですな。それであなたが世話をしていると。いや、大変だ」
ユーミンが作り話に罪悪感を持つ前にリコが素早く応じる。
「大変なのよ。なんたって偏屈でわがままなクソジジイなんだから」
棚の上でJがぴくりと耳を動かす。
それはそれは、と面白そうにしている男にようやく問いかける。
「あなたは……蛇の言葉がわかるんですか?」
男はきょとんとした。
「蛇の言葉? いや、誰でもわかるでしょう。この子は人の言葉でしゃべってますよ」
「……人の?」
今度はユーミンがきょとんとする番だ。
ユーミンは動物たちと話せる。だから大蛇の双子も動物の言葉で話しているのだと思っていた。そういえば、双子が人と接するのを見るのはこれが初めてだ。自分が魔女だから話せるわけではないのか、と失望感が広がる。
「雪が降るって、どうして知ったの?」
ユーミンに代わってリタが聞いた。男はやはり抵抗なく、しゃべる蛇を正面から見て返す。
「ええ、これでね、さっき」
取り出したのは小型のラジオだ。ユーミンの家にもあるが、使うことはあまりない。
「どこに行くつもり?」
「まあ目的なんてのはないんですが、とりあえずは次の街に。地図で見ると山を二つ超えるでしょう。振り出したら数日間止まないみたいだから、山中でじっとしてるのは嫌だなあと思って。旅には慣れてても、冬の山には慣れてないんですよ」
「あっそう。食料は持ってるんでしょ? なくなったからって頼ってこないでね」
きっぱり言い放つのはもちろんリコだ。男は屈託なく笑った。
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