雪の朝

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「やな感じ。調子のいい男って嫌い」 男がテントに戻ってからリコが吐き出す。 「そう?」 「何よ。ユーミン、まさか、あんな男に気を許したりしないわよね? あんな得体の知れない。もう家に入れちゃダメよ」 心配顔でリタも同意する。 「悪い人かどうかはわからないけど、ユーミンは一人なんだもの。うかつな行動は危険だわ」 「それはそうだけど」 言って、別のことを思い出す。 「さっき言ってた、二人が人の言葉を話してるって――本当?」 二匹は顔を見合わせる。 「さあ。よくわからないわ」 「意識して選んでるつもりはないのよ」 「前にも人と話したことがあるの?」 「あるけど、小さい子がほとんどだし、向こうが特殊なのかこっちが特殊なのかはわからないわ」 「そう……」 トッ、と軽い足音がした。振り向くと大きな灰色猫が腰を下ろすところだった。長い尾を身体に優雅に巻き付ける。 「J――リコとリタは」 何か教えてくれるのだろうと期待したが、猫は欠伸をしただけだった。 「――お茶をもらえるかな」 落ち着いた青年の声で言う。人間の姿になったときのJは、ユーミンの倍ほどの年齢、30歳くらいの姿になる。どちらも本来の姿ではない。彼は一応、ユーミンの「使い魔」だ。しかし生粋の魔女の家系に生まれたわけではないユーミンにとっては、師匠のような面もある。 濃いめのミルクティーをテーブルに置く。猫は椅子に上がると、品の良い仕草で舐め始めた。カップを洗いながら思う。ふつうの蛇はミルクティーなんか飲まない。だからやはり、双子もふつうの蛇ではないのだろう。 「ねえ、どう思った? さっきの男」 甲高い声でリコが聞く。猫は長い尾をぱたんと振る。 「さあ。――寒いから上で寝ているよ」 言った声はどこか寝ぼけているようだった。二階に続く階段へ向かう背中に声をかける。 「何か食べる? ケーキ焼いたら持ってこうか?」 「ああ」 気のない返事が残った。 ユーミンは少し、やる気が出てくるのを感じた。雪の下でひそかに頭を出すふきのとうのような。
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