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winter fall
―目を開けるとそこは雪国でした。―
一面真っ白な世界に変わっている景色を眺めながら、ふと昔国語の時間に習った有名な作家の有名な出だしを思い出す。
―国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。―
確かそんな感じで始まった気はしたが、生憎ここには汽車もないし、駅員を呼んでいる女の子もいない。勿論いないから真っ白な世界にライトを照らしてくれる訳もなくて、雪の色は闇に包まれて音もなく静かな世界にゆっくりと溶けて周りを冷やしていくだけ。
もしかして死んだのだろうか?なんて感傷的な事を思ってみたが、前に死んだ時はもっと暖かくてふわふわとした感触だった気がしたのを思い出し、首を振る。
あの時はよく言われているお花畑みたいに花がたくさん咲いている場所は経験したが、三途の川は見当たらなかったし、一般的によく言われている自分の大事な人が立っている訳でもなかったから、案外あそこと日常と言われている場所との違いなんて風景と暖かさ位かもしれない。
もっとも渡ったらこうやってここにいる事も出来なかったかもしれないが。
それでも日常を染めていく白い幕の裾を掴んでみたくて、目の前ではらはらと下に落ちていくものを手に取ってみる。
手袋をしているせいで冷たくもなければ暖かくもない。こんな調子なら今死んだら生きているのかどうかもわからないかもしれない。掠めた可能性に思わず苦笑が零れる。
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