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今日は珍しく雪が降っているんだよ!と興奮気味に教えてくれた見知った女性の顔はほんのり赤くなっていて、寒くてそうなっているのか嬉しくてそうなっているのかはわからなかったが、満面の笑顔に対して色んな不純物をつっくけてしまった今の気持ちは、曖昧な笑顔を向けるだけしか表現方法がわからなかった。
「冷たい……」
試しに口を開けて空から降って来る白いものを口に含んでみたが、さすがに甘いとか温かいとかはなかったようで、少しがっかりする。
少しだけほっとしているけれども。
「これは、変わらないな」
手に持っているスコップを見ながらまた苦笑を1つ。前に雪かきをした時もこんな風にスコップを片手に雪を片付けていて、どこから降って来るのかわからない雪を見上げては飽きもせずに空を見上げていたっけ。
あの時は楽しかったなと昔を思い返しても、同じようでまるっきり違う自らの立ち位置では全く同じ事を思う事も出来なくて目を瞑れば、いつの間にか体が真っ白な地面に寝転ぶような姿勢で横になっている事に気付く。
(冷たい)
さすがにここまで体はやれば冷たいと感じてくれるらしくて、こんな風に新雪に人の形を作って遊んだこともあったっけと思い出せば、立場は違うのに同じことをやっている自分が少し滑稽に思えてくる。
「ほら、遊んでねぇで手を動かせ」
「……わかってる」
今は立場が少し変わって、雪かきをしているのがグラウンドじゃなくて、こじんまりとした家が密集する街の屋外階段で、着ているものは制服じゃなくて動物の毛皮をあしらったこの地域の防寒具。
だけど吐く息は変わらず白くて、かじかむ手はあの時の感触のまま。
変わらないものも、ある。
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