winter fall

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「どうしたの?何だか不思議そうな顔をしているけど」 振り返れば同じような服を纏った赤ら顔がにっこり笑うと、赤くて甘い匂いのする飲み物を手渡してくる。受け取って息を吹きかければ、吐いた息と同じような湯気がコップから出ている。 「こんなに降るなんて久しぶり」 「そうなんだ」 リセットをする前の自分と同じように、嬉しそうな笑顔を空に向けたまま女性がこちらに向かって話しかけてくるも、何となく同じように空を眺める事が出来ずに、赤い色に視線を落としたまま返事を返す。 「もしかして見るの、初めて?」 「見た事はあるよ」 ここではない、別の場所で。とは言えずに飲み物を口に含めば、味は全然違うのに何故か昔飲んだ事がある懐かしい味が舌に残る。 「……おいしい」 「本当?よかった!」 冬が過ぎて春になると、今飲んでいるそれの材料になる果物が実る季節になるんだよ。それを作ったのは去年の春だったから熟成したものになるけど、もぎたて作りたてのも味が違っておいしいよと説明してくれる相手はこの季節の先に待っている暖かい季節を楽しみにしているのがわかるもので、そうだねと言いながらも理不尽にがっかりしていると「でも」と言葉が返される。 「みんなには不謹慎って思われるかもしれないけど、私、この季節が好きなの」 雪かきは毎年大変で、勿論食料も雪で覆われてしまうから確保するのも大変で、生き物だって寒さで減っているし、中には気性の荒くなっているものもいる。 大体の人は早く春になってくれないかなと待ちわびているのが当然で、私も春が嫌いって訳じゃない。 「でも、私はこの季節が……雪が好き」
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