第1章

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目を凝らせば、綿毛のような、羽毛のような。空(くう)から現れてまた空へ、ふっと現れては淡雪のように消えていく。 舞い降りる羽に気を取られていた博雅が、背中を向けて座り込んでいる晴明にやっと気づいた。 「……晴明?どうし……」 歩み寄って話しかけた語尾が途切れたのは。 座り込んだ晴明の腕の中に――抱かれる人影に気づいて。 「博雅!」 座ったままの晴明が博雅を見上げる。 「お前、結界を破ったな。おかげでこのざま……」 こちらも語尾が消えたのは、博雅の顔色が変わったのに気づいて。 「…………」 無言のまま博雅の視線を辿り、自分の腕の中に目を落とす。 「う、わっ!」 普段動じた姿を見せたことのない晴明が慌てたのは。 腕の中にすっぽりと収まった、白い――裸身。 年のころなら十八、九。緩く波打った金色の長い髪。伏せられた長い睫。整った甘い顔立ちの青年だった。 晴明の胸に頬を預けたその目蓋がぴくりと震えて、ゆっくりと瞼が開きかける。 乳脂のようにすべらかな背中から晴明が慌てて手を離した。 唇を震わせた博雅が無言でくるりと踵を返す。 「博雅っ!ちょっ……ちょっと、待てっ!」 制止の声など聞くものか、博雅が走り出ようとした。と、格子がぱたりぱたりとひとりでに閉じていく。 「……!」 閉じた格子を博雅が拳で殴りつけるが、頑として開かない。 「博雅!」 ようやく追いついた晴明が格子を打つ手首を後ろから捉える。 「怪我するぞ」 「離せ!」 もがく博雅を背後から抱きしめた。 「何を勘違いしてるのか知らないが、あれは違う」 勘違いといわれて、青ざめていた博雅の頬に朱が上る。 「何が、違うんだ」 「ともかく説明させてくれ」 博雅の肩を掴んでその身体を返し、自分の方へと向けさせた。 顔を背ける博雅の顎を掴んで正面を向かせたが、瞼を伏せられた。 頑として視線を合わせようとしない博雅に、晴明が焦れる。 「半分はお前のせいだぞ」 いきなり言われて、博雅が思わず晴明を見る。 「なにが……なんでだ」 「結界を破ったろう」 言われれば覚えがないではない。光が散って式が消えたあの時だ。 「ちょうど術の最中で微妙なところだったんだ。いきなり均衡が崩れて、あれが出てきた」 「……あれというと……あの?」 「あの」 頷いた晴明が眉を顰める。 「ひとではないのか?」
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