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目を凝らせば、綿毛のような、羽毛のような。空(くう)から現れてまた空へ、ふっと現れては淡雪のように消えていく。
舞い降りる羽に気を取られていた博雅が、背中を向けて座り込んでいる晴明にやっと気づいた。
「……晴明?どうし……」
歩み寄って話しかけた語尾が途切れたのは。 座り込んだ晴明の腕の中に――抱かれる人影に気づいて。
「博雅!」
座ったままの晴明が博雅を見上げる。
「お前、結界を破ったな。おかげでこのざま……」
こちらも語尾が消えたのは、博雅の顔色が変わったのに気づいて。
「…………」
無言のまま博雅の視線を辿り、自分の腕の中に目を落とす。
「う、わっ!」
普段動じた姿を見せたことのない晴明が慌てたのは。
腕の中にすっぽりと収まった、白い――裸身。
年のころなら十八、九。緩く波打った金色の長い髪。伏せられた長い睫。整った甘い顔立ちの青年だった。
晴明の胸に頬を預けたその目蓋がぴくりと震えて、ゆっくりと瞼が開きかける。
乳脂のようにすべらかな背中から晴明が慌てて手を離した。
唇を震わせた博雅が無言でくるりと踵を返す。
「博雅っ!ちょっ……ちょっと、待てっ!」
制止の声など聞くものか、博雅が走り出ようとした。と、格子がぱたりぱたりとひとりでに閉じていく。
「……!」
閉じた格子を博雅が拳で殴りつけるが、頑として開かない。
「博雅!」
ようやく追いついた晴明が格子を打つ手首を後ろから捉える。
「怪我するぞ」
「離せ!」
もがく博雅を背後から抱きしめた。
「何を勘違いしてるのか知らないが、あれは違う」
勘違いといわれて、青ざめていた博雅の頬に朱が上る。
「何が、違うんだ」
「ともかく説明させてくれ」
博雅の肩を掴んでその身体を返し、自分の方へと向けさせた。
顔を背ける博雅の顎を掴んで正面を向かせたが、瞼を伏せられた。
頑として視線を合わせようとしない博雅に、晴明が焦れる。
「半分はお前のせいだぞ」
いきなり言われて、博雅が思わず晴明を見る。
「なにが……なんでだ」
「結界を破ったろう」
言われれば覚えがないではない。光が散って式が消えたあの時だ。
「ちょうど術の最中で微妙なところだったんだ。いきなり均衡が崩れて、あれが出てきた」
「……あれというと……あの?」
「あの」
頷いた晴明が眉を顰める。
「ひとではないのか?」
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