第4章

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木に触れて立っているその白い額に汗が浮かび、 呼吸が乱れてくる。 そして。 ……ひろまさ 名を呼ばれた気がして、 博雅は顔を上げた。 自室に座る、 彼の目の前には和琴の楽譜。 視線を戻そうとして……何やら騒ぐ心に立ち上がった 。 広縁に出て黄昏せまる庭を眺めると。 庭の隅、 重たげに花房を揺らす藤棚の陰に佇むのは??春花の姿。 「春花!」 博雅が庭に駆け下りる。 「どうやってここに?外には出られないはずでは……」 触れようとしたその指に実体の無い事に気づく。 大きな瞳が博雅を見つめる。 ……博雅、 来て。 助けて。 声の無い声が、 博雅の頭の中にかそけく響く。 「……春花?」 ……いなくなってしまう。 紗羽を……助けて。
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