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「……おひとよし」
呟いて、
紗羽は笛の音に身体を委ねた。
晴明が広縁に出て、
庭で笛を吹く博雅を見つめる。
忘我の境地にはいってしまった博雅は気づく事もなく、
ただ笛を吹き続けていた。
遥か遠い――遠い昔。
こんな風に暖かく満たされていた時が確かにあったと、
紗羽が思い出す。
傍らに居た優しい存在を。
閉じた瞼の下で、
もう朧にしか思い出せないその面影を紗羽が辿った。
「……どうして」
柔らかい音色につつまれて、
紗羽がぽつりと呟く。
どうしてみんな。
どうして、
そんなに優しいの……?
頬を伝うものを見られたくなくて、
紗羽は春花の胸に顔を埋めた。
春花の唇に、
静かな笑みが浮かんでいた。
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