第1話「いやまさかそんなバナナ」

3/5
前へ
/5ページ
次へ
「おい母さん、スイカを取って来たろう。あれを出してやれ」 「さっきお昼を食べたばかりですよ。あなたも早く食べちゃってください」 「またそうめんか。これで3日連続だぞ」 「あなた、昨日もそう言って枝豆しか食べなかったじゃないですか。いいからさっさと食べてください」 台所の方でそんな会話が聞こえてくる。再び外へ目をやる。 おじいちゃんは何もないと言ったけど、都会で生まれ育った僕からすれば、田舎のこういうのどかな風景はとても真新しいし、心が安らぐ場所だ。 聞こえてくるのは、わずかな生活音と風鈴の音。それに自然の風や草木に虫の声。クーラーなんてなくたって、暑さをほとんど感じない。とても気持ち良い空間だ。 目を閉じる。心地良い空間にいるせいか、それともここに来るまでの長い移動に疲れたためか、あっという間に眠気がやってきた。床に寝転がると、すぐに意識が溶け出していった。 ・・・・・・・・・・・・? 誰かが読んでいる気がして目を開けた。 体を起こす。辺りを見回し、耳を澄ませてみても、誰もいないし声も聞こえない。 気のせいか? 首をかしげていると、ポケットに入っている携帯が鳴った。 見ると、学校の友人からメッセージが届いている。 『知らない人にはついていっちゃダメだぞ☆』 「僕は小学生か!」 思わず声に出してツッコミをいれてしまった。 『よく分からないメッセージを送るな!』と返信して携帯をポケットに入れ直す。 「おにいちゃん」 突然。そんな声が聞こえた。 「え?」 声を漏らす。もう一度周りを見回すけど、この部屋の中には僕以外誰もいない。 「おにいちゃん」 もう一度、声が聞こえる。外から聞こえる。 縁側の向こうへ目を向けると、そこにはおかっぱ頭に赤いワンピースを着た、小さい女の子が立っていた。 「・・・・・・」 何ていうか、マルコちゃーーおっと自主規制自主規制。 「おにいちゃん」 女の子は、僕と目が合うとニコリと笑った。 「あそぼう?」 親戚の子だろうか? もしくはこの近所の子? 何にせよ、小学生くらいの小さい女の子に遊びたいと言われたら、断る訳にはいかない。 「いいよ。何して遊ぶ?」 「あっちに行こー」 そう言って、外を指した。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加