第1話「いやまさかそんなバナナ」

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「面白いのがあるの」 ニコニコしながらそう言う女の子。 外か。さっき携帯で時間を確認した時には15:00だった。あまり遠くまで行くと、女の子の親も心配するんじゃ? 「少しだけだから、行こう?」 「あまり遠くじゃない?」 「うん!」 なら大丈夫だろう。夏は6時過ぎまで太陽が昇っているし、3時間もあれば遊んであげるには充分だ。 「じゃ、少し待ってて」 女の子にそう言って、台所に行く。 「おばあちゃん」 「おや、どうした?」 台所にはおばあちゃんがいた。家の中に他の人がいる気配はない。 「お父さんとかは?」 「じいさんに連れられて畑に行ってるよ」 通りで静かなはずだ。 「ちょっと外で遊んでくるから」 「そうかい。気をつけてね」 おばあちゃんに言ったし、大丈夫だろう。よし、それじゃ早いとこ女の子の所に戻ろう。 「あ、ちょっと」 「なに?」 おばあちゃんが呼び止める。 「もう夕方だ。踏切が見えても、その向こうには決して行くんじゃないよ」 「? 分かった」 踏切なんてあったっけ? 来る時には見かけなかったけどなぁ。まあ、地元に住んでる人の言うことには従った方が良い。頭に入れておこう。 「おまたせ」 靴を持って縁側に行くと、女の子は待っていた。 「行こー?」 「ああ、行こうか」 女の子に連れられて、僕は見たことのない面白いモノとやらに踏み出した。 なめていた。 正直、女の子に着いてきたのを後悔しかけている。 「タンポポー」 「早く行こうぜ・・・」 ため息をつく。 これで何回目か分からない寄り道。携帯を出して時間を確認すると、すでに4時を過ぎている。出かけてからすでに1時間。普通に歩けばもう目的地に着いてもおかしくない。 「しおしおー」 しおれているタンポポをいじってニコニコしている女の子に声をかける。 「早く行かないと、僕帰るよ?」 「だめー」 「いや、なら早く行こうよ」 まだタンポポをいじる女の子を説得する。 「行こー」 飽きたのか、立ち上がってまた歩き出す女の子。 「あとどれくらい?」 さっきから同じ質問をしてるけど、返事は「まだー」だったり「もっとー」だったり。 「もうちょっとー」 お? 変わったな。あと少しってところかな。 「よし、なら早いとこ行こうか」 「うん。あそこを越えたらすぐだよ」 そう言って少女が指差した前方を見て、僕は愕然とした。
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