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「3倍とはずいぶん吹っかけて来たなァ」
佐藤は相変わらず暢気な言い方である。
「3倍も出したら赤が出ちゃいますよ」
「確かに。うーん、ちょっと電話してみるよ」
沢田が電話をしている間にどこからか引っ張り出して来た資料をじっと見ていたが、佐藤はおもむろに受話器を取り上げて電話を始めた。暫く何やら話した後、電話を切ると、
「ちょっと高いけど、何とか1.3倍で手をうってもらった」
と、事も無げに言う佐藤に、また目を丸くする沢田であった。
「すごいじゃないですか? 部長、どうやって説き伏せたんですか?」
佐藤はまた大きなため息をついた。
「いやいや、全然すごくないよ。大体が3倍なんてふっかけすぎなんだしさ。
しかもしばらく受注してくれって言われた。この価格で。どう思う?」
「えー、じゃあサンテックさんとの契約はどうするんですか?」
佐藤も、沢田の言葉を聞いて、そうなんだよ、と言わんばかりの顔で相づちをうつ。
「ホントにね、サンテックさんの方が価格も妥当だし、あそことは取り引き続けたいから困るんだよなー」
まるで人ごとのように言う佐藤だが、思いついたように
「ま、一応デジタルライツにも事情を説明して頼んでみるか」
というと、さっさと電話を始めた。
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