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「で、なんで発注ミスが起きたんだ?」
怒鳴る訳でも、大声を出す訳でもないが、佐藤にドスの利いた低い声でゆっくり問い詰められると、沢田は返ってびびった。
「その……追加発注のような形だったので、発注する際にうっかり新規じゃなくて来期の納入期日を入力しちゃったようです。
あのとき、発注方法も変えるだのなんだのでバタバタしたじゃないですか。だから期日の確認があがってこないのに誰も気づかなくて……」
「あー、アレね。誰がやったの」
淡々とした口調でさらに問い詰める。
沢田は冷や汗をかいた。普段温厚なだけに、余計に背中がぞわりとする。
「え……と、ウチの課の桜井です」
「桜井君か。ひとこと工場のライン止めなきゃいけなかったから、結構な損失が出たよ、って言っといて」
沢田は慌てて体を二つに折り曲げた。
「申し訳ありません!桜井にはキツく言っておきます!」
佐藤は、沢田が勢い良く頭を下げたのをみてクククと笑い出した。
「冗談だよ、沢田君。あれぐらいじゃラインなんか止まんないよ。ま、いい機会だから桜井君を脅しといて。1000万以上の損失が出そうだとか何とか。そう言ったら、桜井君はいつ気づくと思う?」
急に柔らかい口調で軽口を叩いたので、緊張が一気にほどけてへなへなと力が抜ける。沢田はほっとして思わず笑った。
「部長、もう、人が悪いですよ?」
「何言ってんだよ。大体ウチはたいして儲かってないんだから、こんなことが続くと俺たちの給料がさらに下がっちゃうよ、ただでさえ少ないのにさー。だから気を引き締めてもらわなきゃならんのよ」
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