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「それは、オマエが昼間にスッピンで見てるからだろ。  暗いところで厚化粧したの、見てみ、全然違うと思うぜ。女は化けるよ」 真面目に提案する佐藤にすっかり調子を崩されたようだ。 「なんか、斬新なアイディアだな……酔いが醒めた……」 がっくりと肩を落としている山本を見ながら佐藤はくくくと笑って、グラスにこぼれんばかりに酒を注ぎながら、飲め、飲めと勧めた。 山本とは長い付き合いだ。 キャバクラに通って鼻の下を伸ばすっていったって、山本がそれ以上どうこうするつもりがないのは佐藤が一番よく知っている。 プレッシャーを感じると現実逃避をするクセのある山本が、無責任な束の間の慰めを求めて行っているのであろうというのは、佐藤はよく理解していた。 しかし、面白くないというカミさんの心情ももちろん手に取るようにわかった。 大体何かの拍子に深い仲になることなんていくらでもありそうではないか。 それに、いくら2馬力で働いて、子供がいないから余裕があるとは言っても、キャバクラ通いだって続ければそれなりにカネもかかるに違いない。それだってカミさんには面白かろうはずはない。 それに比べると、気分転換がコーヒーというのはなんと安上がりなんだろう、と佐藤は自分でも全く呆れる。 臆病なのはわかっているが、美智子とゴタゴタを起こすことを考えると、浮気はもちろん、キャバクラでさえも行く気にならなかった。 わざわざ自分から災難を拾いに行く事もないだろうと、どうしてもそんな風にしか思えない。 そんな自分と比べると、キャバクラで女とよろしくやっている山本がちょっと羨ましくもあるのだが、しかし、結局のところ、佐藤は、美智子との穏やかな毎日をこよなく愛しているのであった。
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