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優香は、急ぎ足で職場に向かっている。 別に時間を気にしているというわけではない。 しかし、このところ、急に朝晩の冷え込みが厳しくなっていたから、自然急ぎ足になってしまう。 それに、オフィスで優香を待ち受ける仕事の量を考えるとどうしても気が急いてしまう、ということもあった。 それでも、コーヒーショップの前で足を止めてしまう。 ここで、佐藤に何回か偶然会ってからというもの、優香はコーヒーショップの前を通りかかるたびに、中をちらっと眺めて佐藤がいないか確かめるのがクセになっていた。 その日の運試しが「自分席」から「佐藤」に変わってきているようだ。 どういう訳か最近何かと難癖をつけてくるように感じる上司や、敵意を隠さない部下と顔を合わせるのが憂鬱で、オフィスに向かうのが億劫なのだ。 そんな時に佐藤と会って、世間話とも言えないようなたわいない話をすると何となく心がふわっと軽くなって、オフィスに行く元気をちょっぴりもらえるような気がする。 だから、その朝、コーヒーショップのカウンターに並んでいる佐藤の姿を見かけた時は、自分でも驚くほど舞い上がってしまった。 「しばらくお会いしませんでしたがどうされてたんですか」 佐藤は背後から声をかけられてちょっと驚いた顔をして優香の方をふりむいたが、すぐに親しみのある笑顔を優香に向けた。 この笑顔。ゆったりした大人の余裕。 優香は、佐藤の醸し出すこの雰囲気に何とも言えない心地の良さを感じていた。 「本当ですね。私もちょくちょくコーヒーを買いに来ていたんですけど、会わないとなると会わないもんですね」 「私は来るたびに佐藤さんがいらっしゃらなくていつもガッカリしていたんですよ」 優香は上目遣いで佐藤を見上げた。
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