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佐藤は優香の視線など気にも留めず、急に話題をかえた。
「小泉さんは翔太のファンですか?」
その言い方が全く自然であったので、優香は、佐藤が彼女の言葉に反応しなかっただけなのか、あるいはわざとスルーしたのか判断しかねた。
「翔太? あの、俳優の?」
優香が思わず聞き返すと、佐藤は軽くうなずいた。
「実は、先日、家内が翔太の映画の試写会に行って来たんですが、その時の舞台挨拶の写真がついさっき送られて来たものですから」
そう言って、ケータイの写真を優香に見せる。
「奥様、翔太のファンなんですか?」
「常々翔太に言いよられたら私を捨てるって言われてます」
佐藤は笑いながら答えた。
その余裕が優香には面白くない。つい佐藤を挑発したくなる。
「だったら、……私が拾っちゃおうかな」
「幸い翔太が家内に近づく気配はないんですけどね」
佐藤は笑った。その時カウンターの人が注文を促して来たので、その話はそれっきりになった。
優香はまたはぐらかされたような佐藤の言葉にモヤモヤが募る。
佐藤はコーヒーを受け取ると、ゆったりと笑って
「それじゃあ」
と、挨拶をすると職場に戻って行った。
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