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「そんな、心にもないこと言ってもらわなくても結構です」 ぶすっとして取りつく島のない優香に、香織が慌ててフォローするが、優香は機嫌の悪いまま手酌でどんどんワインを飲んでいた。圭太は、そんな優香の態度にもひるむことなく、なおも優香に話しかけてくる。 「オレ、思ってること、言ってるだけなんだけどな。優香さんて媚びない感じがすっごくいい!」 そう言いながら、圭太はグラスを持って優香の隣りに座った。本格的に優香を口説こうという腹づもりなのだろうか。優香はなんだかますます腹が立って来た。相手の思うつぼになるもんかと思い、なるべくむっつりと聞こえるように答えた。 「可愛げがないってわけね」 優香のこのひねくれた言い方に圭太は大笑いだ。 「もう、子どもみたいだなぁー。そんなに拗ねないでよ。なんでそんなに不機嫌なの?」 優香はムッとした顔になった。   「べっつに不機嫌なんかじゃありません」 圭太はくすくすと笑って、にこにこした顔を崩さない。 圭太は、顔をぐっと近づけて優香の顔を覗き込んだ。きらきらと潤んだ目で子犬のようにじゃれついてくる。 「じゃ、笑ってよ~、優香さんの笑った顔が見たいなー。きっとすごく可愛いんだろうなー」 ぬけぬけと言ってのける。人のよさそうな自然な笑顔に反って居心地の悪くなる優香であった。 優香だって30過ぎておよそ自分の立ち位置というのが分かっているつもりだ。 「可愛い」なんて言われたって、そんな見え透いたことを無邪気に信じて、にこにこ笑顔を返せるほどナイーブな女ではない。 しかも飲んじゃってるし、かんしゃくを起こさずむっつり黙っているのが精一杯だった。
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