#1

4/25
前へ
/263ページ
次へ
「スミマセン、自己紹介するのをすっかり忘れていました。  ちょっと慌ててますね。  私、小泉優香と申します」  優香が名刺を差し出して来たので、佐藤も慌てて胸ポケットを探る。テーブルの上に自分の名刺を差し出して、優香の名刺を受け取った。  名刺によれば、彼女はすぐ近くの法律事務所に勤めている弁護士らしかった。  優香は、佐藤の名刺を受け取ると、じっくり眺めた。 「佐藤典之さんですね。  イシバシ電機産業の部長さんか。  あら、佐藤さんの職場もこの近くなんですね」  丁寧に名刺をしまいながら、優香は嬉しそうに微笑んだ。  なるほど、言われてみれば、佐藤には大企業の部長らしい落ち着いた風情が漂っていた。  年は50をいくつか超えたぐらいだろうか。  年の割にはスマートでユーモラスな雰囲気がなかなか悪くなかった。 「一番近いコーヒーショップがここなのでよく買いに来るんですよ」  佐藤がそんなことを言うと、優香もパッと顔を輝かせた。 「私も。  コーヒーが大好きなのでしょっちゅう。  特に、ここの席に座ってぼーっと通りを眺めながら飲むのが好きなんです」 「自分だけの特等席、ってわけですか」  佐藤がコーヒーをすすりながら相づちをうつと、優香は一層楽しそうに話を続けた。
/263ページ

最初のコメントを投稿しよう!

418人が本棚に入れています
本棚に追加