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「お待ち合わせですか……?」 コーヒーを受け取る時に、急に店員に話しかけられて、優香はドキッとした。 ビックリして瞬きをすると、店員は優香ににっこりと笑いかける。 「いつもどなたか探していらっしゃるようなので」 日に何度も買いに来ているので、優香は、すっかり顔を憶えられてしまったようだ。 優香がいつもキョロキョロしているののも、店員は気になったのかもしれない。 「え、ああ……時々、ここで偶然に会う方がいらっしゃるので、つい、何となく」 さりげない口調で軽く返事をしたつもりだったが、上手くいったかあまり自信がなかった。 が、店員は無邪気に首を傾げる。 「じゃあ、その方もよくうちに来られるのかしら?」 「多分。コーヒーが好きでしょっちゅう来るって言ってましたから」 「……男の人?」 「……はい」 「……もしかして、ロマンスグレーな感じの人じゃないですか?  スマートでお茶目な感じの。うん、よくいらっしゃってる。今度、お客様のことをお伝えしておきますね」 「あ! いえ……別に特に用事があるわけでもないから、気になさらないで下さい……」 「そうなの?」 「はい……」 店員の大きな目が優香に注がれて、自然、優香の声は小さなものになった。 「伝言ありましたら伝えておきましょうか?」 親切で言ってくれているのであろうが、優香はひどく気まりが悪かった。 「いえ、大丈夫です」 「本当に?」 やけにくどい。優香が少し訝しがっていると、店員がふふふと意味有りげな笑いを見せた。 「……その方がね、やっぱりいつもどなたか探していらっしゃるような感じだったので。  お客様を探していらっしゃるのかな、と思ってたんですよ……」 「え?」 優香はびっくりした顔を向けた。 しかし、店員はそれ以上は何も言わず、謎の笑みを浮かべながら優香にコーヒーを渡した。
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