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それからさらに何日か経って。
結局、その週は一度も佐藤に会うことはなく、週をまたいでの火曜日。
優香が並んでいる時に、佐藤が店に入って来た。
佐藤さん、と優香が呼びかけた声は、叫び声にも近く、周りの客数名と例の店員を振り向かせた。優香は我に返ってちょっと恥ずかしかったのだが、佐藤は別に気にしているふうでもなく、声を聞くとすぐに優香に気付いて近寄って来た。
「相変わらず小泉さんは元気がいいですね。どうしてました?」
佐藤の方から近づいてきて、優香の心臓が高鳴る。ドキドキして息があがるのを必死で抑えながら何とか佐藤の方を向いた。
「べ、別にどうということもなく過ごしてました」
うまく言葉が出ずに、声がどもる。
久しぶりに顔を見たせいだろうか、意識しすぎて佐藤の顔がまともに見れなかった。
「今日は、いつものクールな小泉さんとは少し違いますね。何かありました?」
優香の心の内を知ってか知らずか、佐藤は相変わらず穏やかな口ぶりだった。
「あの…、久しぶりに佐藤さんにお会いしたので、嬉しくて緊張しているかもしれません」
「小泉さんにそんな風に言ってもらえるなんて光栄です」
佐藤はいつものようにそつなく返してくる。優香は心の中で、本当に会いたかったんです!と必死に叫んでいた。
思い詰めたような、苦しそうな顔だった。
佐藤は、優香の顔を何気なく見てハッとした。
美しい横顔。一瞬だけみせた切羽詰まったような表情。彼女の激しさの片鱗が垣間見える。
佐藤がギクリとしたその刹那、優香はいつもの邪気のない顔に戻っていた。
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