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そのまま二人は何か取り立てて何か話す事もなく一緒に列に並んでコーヒーを買う。 優香は、佐藤の顔をまともに見ることすらできなかった。まして、口を開けば、自分を抑えることができそうもなくて、とんでもないことを言いそうだったので、ただ、俯いているだけだった。 決して気まずい沈黙ではなかったが、優香は適当な言葉を見つけることができず、おしゃべりどころではない。 コーヒーを受け取る時、店員が、佐藤に向かって親しげな顔を向けた。 「今日はお二人一緒じゃないですか。ようやく会えたんですね!」 店員は優香の方をちらりと見た。佐藤は屈託なく笑って店員に答える。 「そうなんですよ。すれ違っていたようで何となく気になってから会えて良かった」 優香が、佐藤の言ったことを信じられない思いで聞いて呆然としていると、店員はからかうように佐藤に言った。 「そちらの彼女もいつもお客様のことを探していらっしゃったんですよ」 もう優香は身の置き所がなくて耳まで真っ赤にしながら、佐藤の反応を横でうかがっていたが、佐藤はさっきと同じように、さらりと受け流した。 「全然知りませんでした。意外に会わないもんですね」 そうして、優香に軽く微笑んで続けた。 「ご一報頂ければ、ここにすぐ来ますよ。あなたとコーヒーをご一緒するのは私にも良い気分転換になります」 それを聞くと店員は、 「じゃ、これからはお二人でのご来店、お待ちしてますよ!」 と、愛想良く返した。 そんな店員の言葉に後押しをされるように、コーヒーを手に出口に向いながら、優香は勇気を出して佐藤を誘った。 「あの、今度お茶に誘っても構いませんか? 佐藤さんのお時間のある時に」 「もちろんですよ」 佐藤の快活すぎる口調からは、社交辞令なのか、優香と一緒にいても構わないと思っているのか、優香には判断がつかなかった。 後から振り返ってみれば、「佐藤さんのお時間のある時に」を付け足したのは、自分の自信のなさの表れだったなと、優香は思う。断られる時に、時間がなかったという言い訳があれば、多分、優香はそれほど傷つかないですむのだろう。 無意識のうちに頭の片隅に美智子の姿がちらついたのかもしれなかった。
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