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「奥様とはどこに行ったんですか?」 しばらくの間があった後、いつもの軽快な調子で聞いてくれたので、佐藤もホッとした。 「鎌倉です。家内の親戚がいるので」 美智子の話には触れない方がいいかとも思ったが、あまり意識するのも返ってわざとらしいような気もして、軽く受け流しながら自然に答えたつもりだった。 が、やっぱり、優香の顔が一瞬だけこわばった。 最も次の瞬間には何事もなかったかのように、にこやかな笑顔に戻ったのだが。 「鎌倉ですか。いいですね。この季節はまた趣があって面白いでしょうね」 「そうなんです。もし良かったら」 今度一緒に行きますか―? などとうっかり誘いそうになってまた慌てて言葉を飲み込んだ。 オレは何を考えてるんだ? 佐藤は、何かとんでもないことを言ってしまいそうで、自分で自分に戸惑っていた。 さっきから、ともすると考える前に思った事がするっと口から滑って出て来てしまう。 それも、まるで優香に焦がれているかのようなセリフばかり…… 二人ともとっくにコーヒーなど飲み終わっているのに、どちらも席を立とうとしなかった。 別に会話が弾んでいる訳でもないのに、二人とも何となくそこから動けなくなっていた。 出来れば、この、とぎれとぎれのぎこちない会話を、なんとかいつもの当たり障りのない会話に戻してから、離れたかった。 が、そのきっかけもつかめないまま、 とうとう、優香が先に出ましょうと切り出して、二人は店を後にした。
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