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本橋は、その日いつもよりは遅く出勤してきた優香を捕まえると、早速契約書を渡した。
付箋がいっぱいつけられ、直すように言われてたヤツだ。
月曜日の午前中にメドをつける必要があったので、本橋は、週末を返上して仕上げたのだ。
それなのに、契約書を手渡された優香は、ふうん、出来たんだ、ありがとう、とまるで気のない返事をして受け取るだけで、目を通してさらなるダメ出しが出されるんだろう、と覚悟していた本橋には、この優香の態度は拍子抜けだった。
「どうしたんだろうなー、小泉センセ、最近、情緒不安定じゃないか?」
席に着きながら、隣りの田崎にぼやく。
田崎は、ニヤニヤしながら本橋を見返した。
「さあねぇ、怒鳴られなきゃ、それはそれで気になるのか? もしかして本橋ってドMだったのか?」
その言葉を聞いて、本橋は思わずむせ返る。
「違うよ、お前と違って、オレは、小泉センセの機嫌が、仕事に直結するから気になってるだけ」
それだけ言うと、本橋は目の前のパソコンに視線を戻した。自分の仕事に戻ったとたん、優香から呼び出された。
やれやれ、という顔をして優香のオフィスに向かう。
やっぱり優香は優香だ。プライベートで何があったか、本橋には知る由もなかったが、仕事は相変わらず厳しい。
「どうしました、小泉センセ」
本橋は恐る恐る聞いた。
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