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優香は、本橋に指示を出してから、トーホーの仕事に取りかかるべくパソコンの画面を見つめるが、全然身が入らなかった。 今朝の佐藤とのやり取りが頭からぬけない。 優香の気を引くようなことを言ったかと思えば、平気で美智子と出かけたことを口にする。 それも何気ない口調で、当たり前のように。 さっき、美智子の話が出たとたん、優香は現実に引き戻されて萎えた。 優香の気持ちはどうであろうと、佐藤が優香に少しの好意を持ってくれていたとしても、佐藤には妻がいる。それは厳然とした事実で、いくら佐藤が笑ってくれたところで、それは優香だけに向けられたものではない。 佐藤と会った後に落ち込んだのは初めてだ。 不倫 初めてこの言葉が頭をよぎった。 優香は、拳を握りしめて、うーと低く唸り声をあげた。 自分で自分に気合いを入れる。 今は佐藤のことを考える時間ではない。仕事に集中しなくては。 ここで気を抜くと、トーホーの仕事を他の人に持って行かれるかもしれない。今まで築き上げてきたものをふいにするわけにはいかない。 それから、優香は猛然と仕事をし始めた。
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