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「確かに、なんて暢気な事言ってないでさっさと直して。こういう細かいところの食い違いが後々の争いの元になるっていつも言ってるでしょう」  多分、いくつも年の違わない女の上司に容赦なく注意されて、本橋も立つ瀬がないのだろう。  わかりました、と返事をするその態度は、口先だけだというのがありありと見えて、優香の苛立ちは増した。  本橋が席に戻ると、隣りの同僚の田崎が、待ち構えたようにニヤニヤしている。  直接絡むことがそれほど多くない田崎は、一歩引いて高みの見物を決め込んでいるようだった。 「小泉センセイ、今日も絶好調だな。やっぱアメリカ帰りは気の強さも違うよなー」  田崎がこう水を向けると、本橋は大きなため息をついた。 「何が『暢気なこと言ってないで』だよ。  このドラフトの書類もどんだけ急いで作成したと思ってんだよ。  細かすぎてイヤんなるよ。見ろよ、この付箋の数。大体この契約書、英語なんだよ?」  田崎も本橋に同調する。 「全くなー。  仕事が生き甲斐なのもいいけど、あそこまで態度がゾウなのもどうなんだよ」 「ホントだよ。女のくせに、ちょっとは遠慮しろってんだよなァ。  昨日もトーホーの担当外された件でパートナーに怒鳴りこんでた。  私以上にうまくハンドル出来る人なんていないでしょう、とか言うんだぜ。すげー自信」  その話は田崎も知ってたらしく、容赦なかった。 「そうそう。ああいうところがちょっとね……。  周りじゅうにケンカ売ってるもんな。  あそこまでガツガツしてどうすんのかね、女捨ててるよな。  もう少し周りの男を立てるとかすれば可愛げがあるのになぁ、少しは空気読めってんだよな」 「だよな、女のくせにあんなにでしゃばって、やり過ぎだよな」 「嫁に行けないから必死なんじゃないのか?」 「確かに。相手にする男なんかいねーよ、あれじゃ」  二人は顔を見合わせてヒヒヒと笑った。
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