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今までは何をどうしても、匠は俺より大人といった感じで、俺は振りまわされてばかりだった。
それが今は、匠が少し幼く見える。
俺に跨がり、さっさと服を脱ぎ捨てる様は、まるでやりたい盛りの高校生のようだ。
「あ、そうだ!」
俺はひとつ、匠に謝らなければいけないことを思い出した。
「なに?」
「ちょっとさ、俺、匠さんに謝らなきゃいけなくて…」
匠の胸を押し、その下から抜け出した。
「あの、匠さん、お見合いしたでしょ?上司の娘と。」
「ん?あー、そう言えばそうだな。」
遠い昔のことを思い出すように、匠は宙を見てそう言った。
「その…、匠さんは結婚したかった?」
俺の質問に、匠はキョトンと不思議そうに目を見開いた。
「なんで?」
「え?」
「なんでそんなこと、聞くんだ?」
俺は気まずさから、目をそらせた。
「その…、見合い相手の成美さん。」
「あー、うん。」
「俺、ちょっと知り合いでさ、バーのお客さん…。で、俺、言っちゃったんだよね…。阿川匠は俺の、その、好きな人だって…」
恐る恐る顔を上げると、匠は無言のまま、俺をじっと見ていた。
「ほんっと!ごめん!あんたのお見合いぶち壊したの…、俺…」
頭を下げると、匠が微かに笑う気配がした。
ちらりと見ると、おかしそうに片手で口元を隠している。
「怒らないの?」
「ははっ。怒らないよ。今さら。」
そう言うと、匠は俺の肩を抱いた。
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