最後のワガママ

6/39
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/163ページ
それから私は時間を見つけては女性の店へ通い続けた。 挨拶をするだけでそれ以上の会話は無く、私の他にやって来る顔に沢山の皺を作る人々や、賑やかな子供達、時折来る若い男性と楽しげに話す姿を見ては、何か焦りのようなものを感じていた。 ある日、店を訪れる時間が作れなくなり、数日振りに女性の店へ訪れた時、いつもはオープンになっているそこが硬い壁で閉められ中の様子を伺う事が出来なくなっていた。 どうしたものかと店の前を歩き回り、その硬い壁を叩いてみようかと手を振り上げた時、店の横にある小さな扉がゆっくりと開き、中から女性が現れた。 会いたかったいつもの彼女。 けれどその様子はどこか物憂げであった。 「あら、お散歩おじさま? お久し振りですね」 「こんにちは、あの、お店」 「あぁ、ごめんなさい。暫くお休みなの」 「そうでしたか」 「ねぇおじさま、時間あります?」 「時間ですか?」
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!