最後のワガママ

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「凄いですね」 「もうすぐ見れなくなっちゃうけどね」 「見れない?」 「この家、もうすぐ無くなるんです。父が亡くなってしまって継母が売り払って大きなお店に変えるんですって。素敵なお店なのに」 「そうでしたか」 何となく話は見えて来たけれど、私が口を出すべきところではない気がして、敷かれた薄いクッションの上へ腰を下ろし、片付けを始める女性を見つめた。 大きな鞄に服や数冊の本を詰め、幾多もの小物をさらに小さな鞄に詰めて大きな鞄へ詰める。 何処かへ出かけるのだろうか? そんな疑問は瞬く間に解決した。 「さて、じゃああなたの世界へ連れてってくれる? 私、何でもするから」 いつも見ていた女性の笑顔と屈託のないそれは、迷いも無い真っ直ぐな瞳までもを私へ向け、勢いに飲まれた私は頷いてしまった。
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