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「それでね」
美佐の口元に笑みが浮かぶ。
「会社に報告した後ね、祝杯をあげたの」
お酒を……、だから頬が紅くなっていたのね。
「真一さんとね」
「え……」
「あなたのスマホで呼び出したらすぐ来てくれたわ」
「そんなこと頼んでない」
「いいじゃないこれくらい。もちろん、佑美として真一さんと会ったわ。彼も気づかなかった。今日の話をしたら彼も喜んだわ。そして褒めてくれたの。あんまり褒めてくれるものだから……」
美佐はばつの悪そうな顔を見せる。
「あたし、つい話しちゃった。あたしは佑美じゃなくて美佐だって」
「え……」
「彼、びっくりしたけど、すぐに理解したみたい。佑美があたしのこと前に話していたんでしょ」
「ええ、一度」
「彼は言ったわ。佑美よりあたしの方がずっと生き生きしていて魅力的だって。だからあたしが彼と付き合うことにしたの。彼もそれでいいって」
「うそっ」
真一が私を裏切るなんてある訳がない。ついつい長くなってしまう私の話を、彼はいつもきちんと最後まで聞いてくれていた。そんな彼が……。
「本当よ。彼はもうすぐやって来るわ。そして、この部屋で幸せな時間をあたしと過ごすの」
美佐は手を広げ、周りを見回す。
「だからね。その間、あなたは自分の居場所でじっとしてなさい。声なんかあげて邪魔しないでね」
「そんなっ」
彼女は私の声に耳を貸さなかった。容赦なく扉が閉じられる。そして……、部屋には一人だけが残された。
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