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「もうすぐ音楽祭だぞー。誰かピアノ弾ける奴いないかー」
やる気のなさそうな先生の声が教室に響く。
それ以上に気力のない私は、倒れそうになる体を支えるのでやっとだった。
誰もいないのか、と先生が続けて言うと、生徒の一人が元気よく手をあげた。
「はい先生!浅井さんがいいと思います!!」
「浅井?」
浅井?
――ってまさか私のことか。クラスメイトの名前は覚えていないが、浅井は私一人だった気がする。
「浅井、弾けるのか」
「え、いや私は…」
音楽祭でピアノ?とんでもない。
人前で弾くなんて。いやそもそも、もうピアノは弾かないと決めたのだ。
「この間掃除時間に弾いてるのを見ました!」
「え」
「なんだと!」
やばい、見られてたのか。
怒られると思ったが、「とりあえず何か弾いてみてくれ」と、無理やりピアノの前に座らされた。
「……」
弾けるわけがない。
「根暗の浅井がピアノなんて弾けるわけないわー」
「だよねー」
こそこそと、しかしはっきりと、笑い声が聞こえる。
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