オカメさん

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 とにかく私は普通だ。  趣味なし、特技なし、ついでにいうなら友達もなし。  中学二年になったが、この時期に発症すると言われる病気の兆しもなく、ただただ普通の女子として生きている。  浅井桃香。  名前もいたって普通である。  もちろん、今時なキラキラネームを付けてほしかったわけではない。  クラスの中にも変わった名前の子は何人かいるが、覚えるのは大変だし、何より犬より犬みたいな名前を付けられて、哀れでならない。  なので普通の名前を付けてくれた両親には、いたく感謝している。 「ただいま」  普通の女子中学生の部屋は、やはり普通である。  机、ベッド、勉強道具――とくに変わったものはない。 「ピピッ」  ひとつあった。  オカメインコの、オカメさんである。  オカメさんの本当の名前は知らない。  彼は、偶然私の部屋に入ってきた、迷い鳥だったのだ。  ポスターを作ったりして、飼い主を探す努力はしたが、結局見つかることはなく、オカメさんは我が家の子となった。 「オカメさん、いい子にしてた?」  つまらない毎日の、唯一の癒やし。  ――それがオカメさんだった。 バササッ  カゴを開けてやると、オカメさんは勢い良く飛び出して、お気に入りの鳩時計の上に乗った。  そしてなにやらご機嫌に歌いだしたのである。 「いいなぁ、オカメさんは楽しそうで」  言いながらベッドに横たわり、目を閉じた。  明日は学校行事で、ピアノのコンサートを観に行くことになっている。 (興味ないし、一緒に観る友達もいないし、行きたくないなぁ…)  そんなことを思っても、急に友達ができるわけでもなければコンサートが中止になるわけでもない。つまり、仕方ないことなのだ。 「ピッピッピッ~」  私の落ち込みなど知らぬとばかりに、オカメさんは夜中まで歌い続けた。
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