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次の日。
そこそこ大きな会場である。
うちの学生が三分の一ほど。残りは一般の客。空いている席はないようだった。
「浅井さん根暗がうつるから近寄らないでー」
「やだー」
一人の言葉に、つられてクラスの女子たちが笑い出す。
そうなのだ。
私はただ友達がいないだけではない。
数人の女子に軽いイジメを受けていた。いや、だからこそ、友達がいないのだろう。
「おいこら静かにしろー」
ざわつく生徒たちを、担任の先生が叱る。
たしかまだ25にもなっていない若い男性の先生であるが、ドラマに出てくる先生みたいな情熱はないらしく、私のことにも無関心だった。
ちなみにうちの学校は女子校である。
何が言いたいかというと、女子の声っていうのはすごくうるさい。
「あっ、始まるみたい」
先程までのざわめきが嘘のように、静まり返る。
よかった。この人達のわめき声は、本当に頭を抱えたくなるのだ。
「ちょー有名なピアニストだって!」
「へぇ~」
期待の拍手に迎えられ、一人の女性が舞台に現れた。
背はスラッと高く、くるりと緩やかに巻かれた長い髪。美しい薔薇を思わせる、真っ赤なドレス。
おとぎ話のお姫様が目の前にいるような感覚に、皆は目を輝かせた。
しかし、そんなお姫様を私はただ、ボーっと見つめていた。
正確には彼女をみているというより、その先の明後日をみている感じだ。
早く終わらないかな…。それだけ、考えていた。
静かな会場に、軽やかな音が響き渡る。
(ああ、つまらない…)
はぁ、私、ずっとこのままなのかな。
このまま何も起こらず、思い出も残らず、生きていくのかな。
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